東海大学大学院海洋学研究科海洋科学専攻博士課程前期 1996年度 修士論文 M科 5 (1997)

駿河湾の急潮に関する研究

勝間田高明

  

駿河湾は本州南岸にある開放性の深い湾である.また同湾沖合には世界最大級の海流黒潮が流れている.同湾のような黒潮沿岸域の開放性の他の湾では,黒潮外洋水の流入すなわち急潮が報告されている.急潮は通常は表面水温の急変を伴うため,最近では流速に比べ比較的に観測が容易な水温の急変も急潮と呼ばれている.同湾では黒潮流軸の接岸に伴い湾口東部より黒潮分派流が流入することは報告されているが急潮と題した報告はない.

そこで同湾の急潮を捉えてその特徴を考察するために,湾口東部および湾奥西部において観測された約6年分の水温および湾口東部で観測された約1年分の流速資料に関して解析を行った.

その結果得られた知見は次の通りである.

 

1)黒潮流軸が銭洲以北まで接岸すると湾口東部で100m以浅に限られる強い流入があり急潮が発生する.湾口東部がまず昇温しその後湾奥でも昇温がおきる.しかし希に湾口のみに昇温が限られる場合もある.

 

2)急潮は寒候期には表面水温の急変という形で現れやすいが,暖候期には表面水温の急変としては現れにくい.

 

3)急潮は時期に関係なく水位変動に現れる.

 

4)表面での水温上昇や流入に対応した水位の上昇が見られたが,それ以外にも水位上昇は見られた.これは表層・270m層・500m層の比容から計算した力学ポテンシャルの時間変動と水位の時間変動の対応,また鉛直流速分布から表面下への外洋水の流入に起因することが判明した.

 

要 旨

駿河湾は開放性のため,沖合の黒潮分派流が湾口東部からしばしば流入する.急潮とは,本来沿岸の定置網を破損・流失する様な強い流れを意味するが,急潮は通常水温の急上昇を伴い,水温の観測は流れの観測より簡単であるため,最近では水温の急上昇自体も急潮と呼んでいる.急潮は黒潮の北側の本州南岸で多く報告されているが,同湾での急潮と題した報告はない.そこで,同湾口東部および湾奥西部での最近数年間に亘る表面水温および湾口東部での最近1年間の海流観測の資料などを解析し,同湾の急潮に関する以下の知見が得られた.

 

1)黒潮が同湾に接岸すると黒潮分派流が湾口東部海域からしばしば流入し,その結果同海域の流れは強い流入となり表面水温は急上昇する.すなわち,同湾でも急潮は頻繁に発生する事が判明した.

 

2)急潮の表面水温への影響は外洋と湾内と水温差の大な寒候期に強く現れ,一方水温差の少ない暖候期は現れ難い.しかし,急潮は季節を問わず流れと塩分,さらに水位に現れる.

 

3)沿岸水位は必ずしも表面水温との対応は良くないが,熱容量(表面以深の水温および塩分から求めたダイナミックデプ
ス)と関係が強い.

 

4)湾口東部海域で検出された急潮は,湾奥まで達する場合と達しない場合がある.湾奥まで達した場合の伝播速度は約1ノットで,これは隣接する相模湾での急潮伝播速度に較べてると若干小さい.

 

5)急潮は2日間に5℃も上昇する場合がり,急潮の及ぶ深さは概ね100m以浅である.

 

6)黒潮が銭州以北まで接岸すると湾口東部から強い流入となり,銭州以南まで離岸すると流出または流入となる.

 

7)水温急上昇と逆に,湾口東部の沿岸水温に数日間に5℃もの降下が暖候期に希に発生する.これらは沿岸湧昇と台風通過時の鉛直混合に起因していた.


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